第二回です。前回→最近読んだ本紹介 ダサい順
前回と同じく書店でレジに持っていくのが恥ずかしかった順です。
1.堀本見『読むだけでグングン頭が良くなる下ネタ大全』
書架に平置きされているのが目に入った時、絶対に購入しなくてはいけないと悟った。覚悟を決めてレジに持って行って会計したら「カバーおかけしますか?」と訊かれて「おかけするにきまってるだろ!」と叫びそうになった。
内容については多分どこに言及しても一発で品性を欠くことになってしまう。少なくともそういうことしか書かれていなかった。が、それ故に終始爆笑しながら読んでいた。結構ちゃんと学術的興味を誘うようなところもあって誰かに話してみたくなった。話せる相手がいなさそうなのが問題である。おしっこの章は特に感動的だったのでぜひ読んでほしい。
ちなみに読んでも別に頭は良くならなかった。むしろちょっと悪くなったような気がする。
2.千葉雅也『センスの哲学』
国立駅北口の増田書店は夜の時間帯に無人営業をしていて大変ありがたい。というのも、この本の帯には「これはセンスが良くなる本です。」と書かれている。千葉雅也もなかなか悪趣味だ。
以前千葉の『動きすぎてはいけない』を読んだ際、現代思想における脱構築が人工生命理論におけるカオスの縁に対応することに気づかされるアハ体験があったのだが、『センスの哲学』では後半で自由エネルギー原理に言及する箇所があって驚いた。
主題である「センス」の脱構築についての議論は國分や宇野などにおけるスピノザの「コナトゥス」概念についての議論に通ずる部分があり、ここ最近考えていた社会と生命の相似関係みたいな概念が明確に図式化された感覚があって霧の晴れた気持ちだった。
3.ミチオ・カク『神の方程式 「万物の理論」を求めて』
なんとなくタイトルが少し恥ずかしい。最近物理モチベが現象論寄りになってきてて、要素還元論の気持ちを取り戻したいと思って読んだ。
物理学の興りから超弦理論、M理論に至るまでの、人類が「万物の理論」を目指したその道筋がまとめられている一般向けの読み物。多少知らない単語が出てきても受け入れられる人なら誰でも楽しめると思う。
最後の章では一歩踏み込んで万物の理論が哲学的に(?)どのような意味を持つのかといった考察がされていて非常に興味深い。なかでも印象に残ったのは「たとえ実験で確かめられなくても、標準模型に含まれる多数の恣意的に見える定数値を独立に導出できるのならば理論の正当性や価値が証明されると言っていい」という内容の主張だった。
これは賛否両論あるだろうが、個人的には肯定寄りだ。おそらく否定派の主な理由としては実体を確かめられない概念を持ち出すことへの抵抗だろうが、じゃあ量子力学の確率振幅や電磁気学のベクトルポテンシャルなどはどうなるんだという話である。実際に観測にかかる存在確率や電磁場より、実体の確かめられないそれらを根源的な構成要素とした方が理論がすっきりするから採用されている。超弦理論だって現状の標準模型の混沌とした姿(主観)をよりすっきりと書けるならば、それは立派な物理学なのではないだろうか。(まだランドスケープ問題とかあるからそれには程遠いけど)
4.田崎晴明『熱力学 現代的な視点から』
第六章までは数年前に読んでいたので再読。
ローレンツ祭(京都大学院の理物が主催するイベント)で佐々真一先生と話した時に「還元論には初期条件が含まれないから現象論を完全に導出できない」みたいなことを言われたのだが、改めて田崎先生の基礎科学観に関する記述を読んでその主張が接地した感じがした。人間が世界に対する理論を作る時には認知や数学などの制約によって原理的に完全な一つの理論に仕上げることは難しい。しかし、いくつも独立に存在する理論が相互に連関し互いの正当性を保証し合って全体として世界を記述している。そんな”理論の網”のような姿が田崎先生の基礎科学観である。
私はこのイメージを、世界地図のようなものとして解釈した。地球は球体をしているから、平面の地図にするにはどうしてもどこかを引き延ばしたり縮めたりしなくてはいけない。「○○図法」というのを聞いたことがあるだろう。用途に応じて、距離や面積、方角など正確に描く項目を定めて、その他が崩れることを許して作るのが世界地図である。
科学が世界を数学の言葉で記述するのは、この地図を作る作業に似ている。熱力学なマクロな声質、量子力学ならミクロな性質、古典力学なら遅い運動、相対性理論なら速い運動といった具合でそれぞれの物理学で扱うことのできる現象の範囲が限られていて、全体として初めてこの世界のほとんどをカバーできるまでになる。
だから田崎先生の熱力学の定式化では気体のミクロな性質を一切仮定しない。むしろ、熱力学的な系が古典力学と似た性質のエネルギー構造を持つことから気体が力学的エネルギーを持つ粒子から構成されることが予測できるという議論の流れが強調されている。この部分は目から鱗だった。
5.江沢洋『だれが原子をみたか』
田崎熱力学の演習問題で「なぜ君は原子論を信じているのか説明せよ」という内容の問題があり、自分なりの答えができたら読むようにとこの本が指示されていた。(ちなみに私の回答は「万物の構成要素がある程度普遍的で離散的な構造を持っていなければ、理性を持つような一定の秩序立った自己組織化構造物(私)は確率的に存在しえないから」というもの)
原子論に至るまでの道筋を、歴史上行われた実験を再現しながら追っていくという内容。
普通の物理の教科書は理論も観測も理想化されていることが多いのだけど、この本は実験セットの写真とか結果データとかがそのまま載っていて、なんというか、本当に現実世界の話をしているんだという感じが強くあった。
私はずっと実験物理に興味がなかったのだけど、いかにして目に見えない法則の世界を観測に落とし込むかという手法の数々が推理小説のような面白さを持っていて、将来実験に携わるのもいいかもと思えた。
6.坂本龍一『音楽は自由にする』
坂本龍一の自伝。曲ができなすぎる時期に藁にも縋る思いで読んだのだが、残念なことに大して参考にはならなかった。多分それは坂本龍一の真逆みたいなジャンルであるkawaii future bassを作っていたからだと思う。
個人的にはミュージシャンとしてのエピソードよりも、学生時代に学校の授業に行かずに文化や政治に浸っていた話がとても印象に残った。あと随所に恋愛へのコンプレックスみたいなものが表れているのも人間っぽくて良い。